第61巻 第3号
経済地理学年報 Vol.61 No.3
■論説
グローバル化にともなう中国広告産業集積地域の変容 ― 上海市を事例に ―
…… 趙 政原 1(181)
■研究ノート
人口減少時代の地域政策
…… 森川 洋 22(202)
■国際フォーラム
多国籍企業のネットワーク形成の地域的展開と都市
…… セリーネ・ローゼンブラット 39(219)
■書評
小池洋一著(2014):『社会自由主義国家 ブラジルの「第三の道」』
…… 木下 雅夫 58(238)
中藤康俊(2014):『日本経済と過疎地域の再生』
…… 西野 寿章 62(242)
青山裕子・ジェームズ・T・マーフィー・スーザン・ハンソン著,
小田宏信・加藤秋人・遠藤貴美子・小室 譲訳(2014):『経済地理学キーコンセプト』
…… 加藤 和暢 64(244)
青野壽彦・合田昭二編著(2015):『工業の地方分散と地域経済社会 ― 奥能登織布業の展開 ― 』
…… 中藤 康俊 68(248)
■学会記事 …… 72(252)
要旨
グローバル化にともなう中国広告産業集積地域の変容 ― 上海市を事例に ―
…… 趙 政原
改革開放以来,中国では制度改革が進められるとともに,1990年代以降に急成長する広告市場を背景に,外資系広告企業の進出が相次いできた.本稿の目的は,グローバル化の進む中国広告産業の制度変化を明らかにするとともに,成長著しい上海における広告産業集積を,企業間取引関係,都市空間構造,地域労働市場の観点から検討することにある.
上海の広告産業集積は,欧米や日本からの外資系大手企業と,地元メディア社,国内他都市からの進出企業,地元の中小広告企業から構成される.外資系大手広告会社の多くは都心部に集積してきたが,地元広告会社と同様に周辺への拡散傾向をみせている.
企業間関係と人的関係の検討から,上海の広告産業集積は,①域外リンケージを重視する大規模広告会社と,地元企業の広告需要に応える各種の中小広告会社との2極化構造と,②ベテランから若手までの広告人材における多様な人的ネットワークを特徴としていた.外資系を中心にした大規模広告会社にとって,世界都市としての上海は,域外のビジネス資源や知識情報を活用できる利便性を提供しているが,中小広告会社の外的リンケージはよりローカルなものである.広告会社の階層性と同じく,クリエーターの労働市場も,域外と域内の2 つの空間が並存している.フォーラム,イベントによって高度人材たちの全国的なネットワークが成り立っている一方,若手クリエーターが活用するサイバー空間はローカルな社会ネットワークを構築しつつある.
キーワード 広告産業,産業集積,グローバル化,外的リンケージ,上海
人口減少時代の地域政策
…… 森川 洋
急速に進む人口減少により2040年には近代化以前の人口数に戻る道県もあるが,小規模町村の人口は著しく減少し高齢者が増大するため,近代化以前の状況が再現されるわけではない.さらに,人口減少とともに財政規模も縮小するからインフラ施設の更新も困難となる.その場合には,費用対効果を考慮して,インフラ施設の更新よりもインフラの整備された地域へ住民が移住すべきとの意見もあるが,少なくとも自市町村内にとどまり,これまでの人口分布をできるだけ維持すべきであろう.現在までのところ,過疎地域では従来の地域活性化政策が継続されており,移住計画などの新たな対応策はとられていない.階層的な中心地システムの整備に基づく地域活性化対策によって人口減少社会に対処するのが望ましい.
キーワード インフラ施設,過疎対策,人口推計(2040年),人口減少時代,中心地システム
多国籍企業のネットワーク形成の地域的展開と都市
…… セリーネ・ローゼンブラット
Inter- Cities’ Multinational Firm Networks and Gravitation Model
…… Céline ROZENBLAT
The capacity of cities to operate in global networks of firms is usually measured based on the degree of centrality of their position within networks of multinational firms across the globe. However, we assume that regional groups of cities that interact more intensively with each other are more relevant to define central positions. This paper aims to identify these regions and assess their relative influence on the globalization of cities through multinational firm networks. A global database has been generated for the network of 1 million direct and indirect ownership links between the 800,000 subsidiaries of the top 3,000 multinational firms of the world, which are located within 1,205 metropolitan areas. One finding that emerges from this research is that globalization occurs mostly through intra-continental linkages but is also facilitated by strong intra-national and even intra-urban sub-networks. Local intra-urban network complexity is shown to influence the process of global integration. Distance still influences globalization, but not with the same intensity within different parts of the world. The multi-scale centrality of cities is discussed based on the concepts of geographic and economic integration within multinational firm networks.
Key words: Multinational firm, cities, world regions, networks, gravitation model, graph theory