第56巻 第3号
経済地理学年報 Vol.56 No.3
■ 論説
道州制改革の地域区分と地域格差
…… 森川 洋 1(115)
大分県における間接雇用の展開と金融危機に伴う雇用調整の顛末
…… 中澤高志 22(136)
■ フォーラム
研究開発機能の集積をめぐるグローバル・ローカル関係
-2009 年度横浜地域大会・第2回日韓経済地理学シンポジウム-
…… 松原 宏 48(162)
■ 書評
(財)中部産業・地域活性化センター・伊藤達雄編著 『中部を創る~20 人の英知が未来をデザイン~』
…… 山田晴通 55(169)
■ 学会記事
…… 58(172)
要旨
道州制改革の地域区分と地域格差
…… 森川 洋
民主主義政治の成熟とともに地方分権が強化される方向にあるとはいえ,権限移譲後のすべての地域(地方)が経済的に発展するわけではなく,地域格差の一層の顕在化が諸外国で報告されている.日本の道州制改革においては地方への権限移譲がどの程度実現するかが問題であるが,本稿では①都市の人口移動率による地域的連結関係,②人口規模,州都の機能や位置による道州区分,③各道州内における地域特性の分析による改革後の地域的実態について検討した結果,中国・四国州の問題を除くと9 州区分の採用がある程度妥当なものと考えられる.ただし,3 大都市州の成長によって大都市と地方間の地域格差がさらに増大する可能性は否定できない.
キーワード 道州制,地域格差,都市システム,農村的市町村,9 州案
大分県における間接雇用の展開と金融危機に伴う雇用調整の顛末
…… 中澤高志
本稿は,間接雇用労働者の増加が地域に与えた影響と金融危機に伴って実施された雇用調整の顛末について,いわゆる「派遣切り」の発生によって全国的な注目を集めた大分県を対象地域として分析することを目的とする.分析に際しては,企業の追求するフレキシビリティの代償を労働者にリスクとして転嫁する制度として,間接雇用が現代の労働市場に組み込まれている点に注目する.
複数の大手製造業の事業所が立地する大分県杵築市と国東市では,県外から多くの間接雇用労働者が転入し,その受け皿として賃貸住宅の建設が活発化した.しかし転入した間接雇用労働者の中には,住民票を移していない人も少なくなかった.2008年秋の金融危機を契機として,間接雇用労働者を対象とする雇用調整が実施されると,大分県内の自治体は雇用創出と住宅支援を軸とする緊急雇用対策を打ち出した.しかしそれに対する間接雇用労働者の反応は予想以上に弱いものであった.筆者は、その理由を間接雇用労働者の多くが県外からの転入者であった点に求めたい.「根付きの空間」を大分県に移すつもりで来た間接雇用労働者はわずかであり,それゆえ彼/彼女らの多くは,そこに「関与の空間」を構築することなく,再び他地域へと転出していったと思われる.
自治体の緊急雇用対策が一定数の間接雇用労働者を救済してきたことは正当に評価すべきである.しかしそれは,自治体の領域を超えて流動する間接雇用労働者への対策としては限界がある.効果的な対策を構築するためには,自治体の枠を超え,労働市場全体の構造を見据えた取り組みが求められる.
キーワード 間接雇用,雇用調整,緊急雇用対策,「労働の地理学」,大分県
研究開発機能の集積をめぐるグローバル・ローカル関係
―2009年度横浜地域大会・第2回日韓経済地理学シンポジウム―
…… 松原 宏
2009年度の地域大会は,2009年11月29日に横浜市立大学にて開催された.本地域大会は,第2回日韓経済地理学シンポジウムとしても位置づけられ,シンポジウムでは,日本と韓国における研究開発機能の集積を多角的な観点から比較するとともに,両首都圏をはじめとした研究開発集積地域の政策的課題について議論がなされた.また翌日の11月30日には,横須賀リサーチパークと日産自動車追浜工場を主たる見学先とした巡検が行われた.
キーワード 研究開発,グローバル化,ローカル化,知識フロー,集積