第56巻 第1号
経済地理学年報 Vol.56 No.1
■ 研究ノート
政策転換期における離島航路維持の展開
──瀬戸内海を中心とした不採算航路を事例として──
…… 田中健作 1( 1)
沖縄・久米島紬織物産地の存続とユイ
…… 上野和彦・石田典行 16(16)
■ 書評
純水館研究会編:『シルクの里・小諸──純水館ものがたり──』
…… 竹内淳彦 31(31)
藤田昌久監修 山下彰一・亀山嘉大編:『産業クラスターと地域経営戦略』
…… 山本健兒 35(35)
伊藤喜栄・藤塚吉浩編:『図説 21 世紀日本の地域問題』
…… 合田昭二 39(39)
■ 学会記事
…… 43(43)
要旨
政策転換期における離島航路維持の展開
──瀬戸内海を中心とした不採算航路を事例として──
…… 田中健作
本稿は,国の地域公共交通政策の転換期における離島航路維持の展開について,航路事業者や自治体レベルの対応を中心に考察した.研究対象には,瀬戸内海における,経営条件の不利な,人口規模の小さな島と対岸地の間を結ぶ短距離航路を主に選定した.
島嶼地域は代替交通手段が乏しいため,定期航路の存続が重視されてきた.地域公共交通政策が転換期にある中で,現行離島航路政策は,陸上の公共交通政策に比べて国の政策的保護の力が未だ強いものであるが,補助制度の変更により各事業者には収支改善がより強く求められている.
この下で,対象航路においては,サービスの現状維持に向けて,既往の行政と事業者が中心となって,運航体制が維持されてきた.収支改善は事業者の費用抑制により進められ,財政支出の抑制と航路の現状維持の両立とが図られてきた.
しかしながら,船員不足の深刻化といった問題も生じており,航路を維持するための経営資源の拡大や航路維持体制の再編成などの重要な課題は残されたままである.
キーワード:離島航路,地域公共交通,補助制度,船員問題,瀬戸内海
沖縄・久米島紬織物産地の存続とユイ
…… 上野和彦・石田典行
本稿は,沖縄県久米島町に展開する織物業を対象とし,原材料,労働力,生産組織等の分析を通して織物産地の存続について考察したものである.
久米島紬産地の存続は第一義的に需要の変動という経済条件に規定されるが,それに対応する産地基盤の確立とそれを支える地域のあり方もきわめて重要な要素である.
調査・分析の結果,久米島紬産地の存続には,継続的な原材料と労働力の供給,生産を支えるユイという労働の交換組織の存在が大きな役割を果たしてきたことが明らかである.伝統的地場産業産地の存続基盤は,地域の歴史・社会・文化等の非経済的要素が埋め込まれた空間(本稿では,共生互助空間)にあり,久米島紬産地はそれが強く機能している.そして,久米島紬産地は,今日における和装需要の著しい低下によって経済論理が優先される経済空間に置換されつつあるが,共生互助空間の存在が産地の存続に大きな役割を果たしている.
キーワード:沖縄,久米島,伝統的織物産地,ユイ,共生互助空間