第55巻 第3号

経済地理学年報 Vol.55 No.3 (2009.9)

■ 論説

京都市中心部におけるマンション開発と人口増加の動向
 …… 堀内千加 1(193)

沖縄・石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択とサトウキビ政策
 …… 新井祥穂・永田淳嗣 23(215)

■ 研究ノート

事業所の屋外広告展開にみられる空間的特徴
 ─中京大都市圏北西部を事例として─
 …… 近藤暁夫 42(234)

フランスにおける地方分権と地域開発政策の変容
 …… 岡部遊志 61(253)

■ 書評

河野敏明:『農業立地変動論─農業立地と産地間競争の動態分析理論─』
 …… 須田昌弥 75(267)

■ 学会記事

 ……  77(269)

要旨

京都市中心部におけるマンション開発と人口増加の動向
 ・・・ 堀内千加

人口の減少が続いていたわが国の大都市都心部において,1990 年代以降人口が増加に転じる現象がみられ,それは人口の都心回帰ともよばれる.京都市でも1990年代後半以降,中心部において人口の大幅な増加が観察される.
そこで本稿では,京都市中心部を対象地域として,産業地域特性に基づく地域区分を行い,それぞれの地域の用途地域や高度制限,土地利用といった地域的特徴が,マンション開発や人口動向にどのような地域差をもたらすことになったのかを分析した.
1990 年代後半以降に人口増加がみられるのは,京都市の都心地域であり,マンション開発が進んだ地域に相当する.しかしながら,都心地域内部におけるマンションの占有面積や価格の地域差によって,増加人口の年齢層や世帯特性に変化がもたらされる.占有面積が広く,住環境に恵まれた地域では,マンションも高価格であり,世帯主が40.50歳代で,子どもを伴った世帯の増加がみられる.一方で,占有面積は相対的に狭小であっても,マンション価格は低く,生活利便性の高い地域では,30.40 歳代を中心に,子どもを伴わない世帯の増加が特徴となる.
このように,地域特性によって分譲マンションの占有面積や販売価格などの条件は異なり,それらが増加人口の年齢層に影響を与えることが明らかとなった.

キーワード:
 京都市,都心地区,人口増加,都市計画法,分譲マンション


沖縄・石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択とサトウキビ政策
 ・・・ 新井祥穂・永田淳嗣

本研究では,石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択を適応的技術変化の視点から分析し,その結果を基に,沖縄県のサトウキビ作の構造再編の帰結として政府が想定する大規模機械化地域生産システムの現実性や妥当性を検討した.石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択では,沖縄の気象条件や土壌条件など生態環境が課す制約に対処しうる経費節約的技術の選択という基本方針が確認され,特に生計戦略上サトウキビ作への依存度が高い経営は,家族労働力代替的な機械収穫を積極的に選択することはない点,大規模機械化経営は,沖縄の生態環境の下で規模の経済を十分に発揮できず,優位性を持ち得ない点などが明らかになった.
以上より,今後農家の高齢化により農地が流動化しやすくなるとしても,自立的な大規模機械化経営群を核とする大規模機械化地域生産システムを追求し続けることは現実性を欠くといえる.一方で,家族労働力代替的な機械収穫の受委託関係を軸にした地域生産システムへの一元化も,サトウキビ作所得の最大化・確実化を図る青壮年など機械収穫に合理性を見出せない経営群の排除につながり,妥当性を欠く.機械収穫と手刈りそれぞれが,異なる経営目標に対して持つ意義に注目し,両者を組み込んだ複合的な地域生産システムを追求することが,結果的に青壮年を含む地域の農業経営群の活力の維持に貢献することになり,沖縄サトウキビ政策の方向性としてより現実的かつ妥当であるといえよう.

キーワード:
 沖縄,サトウキビ,技術選択,機械化,農業政策


事業所の屋外広告展開にみられる空間的特徴
 ─中京大都市圏北西部を事例として─
 ・・・ 近藤暁夫

消費者が持つ事業所の位置や事業内容についての知識は多くの場合断片的である.そのため,企業・事業所は,消費者に対して位置や事業内容の情報伝達活動を行う.本稿では,その活動にみられる空間的な特徴について,中京大都市圏における事業所の屋外広告活動を事例に検討した.
中京大都市圏北西部の主要道路沿いに屋外広告を出している事業所を調査し,屋外広告を約18,000 件,広告主を約7,000件抽出した.
屋外広告は,主に小売・卸売業の事業所と,対個人サービス業の事業所が掲出する.屋外広告は事業所からの距離を変数とする対数正規分布に類似したパターンをもって展開され,広告圏(広告の90%が含まれる範囲)は,事業所から半径約5.5㎞の範囲である.業種別では,レジャー施設や宿泊施設の広告圏が広く,歯科医院や飲食店,理容・美容院などで広告圏が狭い.また,広告圏は市街地内に立地している事業所の方が市街地外の事業所より狭い.
個々の事業所の広告展開は,基本的に「有限性」「広範性」「誘導性」の3つの原則に従う.それゆえ,事業所の広告展開には,事業所を中心として,近傍よりも一定距離が離れた地点に最大の広告掲出地点があるという共通の傾向が確認できる.屋外広告の空間展開が,全体として正確な対数正規分布パターンをなしているかどうかはともあれ,事業所からの距離に規定された分布パターンをなすのはこのためと考えられる.

キーワード:
 屋外広告,対個人サービス業,商圏,中京大都市圏


フランスにおける地方分権と地域開発政策の変容
 ・・・ 岡部遊志

フランスでは1960 年代,1970 年代にかけて中央政府の強力なリーダーシップによる地方への分散策を中心とした地域開発政策が展開された.その後1981 年のミッテラン改革により地方分権が推進され,地域開発に関わる主たる権限は「地域圏」へ委譲されることになった.フランスは,人口規模の小さな基礎自治体が非常に多い国としても知られるが,1990 年代には,地域のつながりを重視しつつ広域的な行政サービスを実現すべく「ペイ」政策が実施された.現在のフランスでは,「地域圏」と「ペイ」が中央政府に代わる新たな地域開発主体として,重要な役割を果たすようになってきている.
21 世紀をむかえてフランスでは,新たな施策として,「競争力の極」政策が登場してきた.これは,グローバル化やEU 統合の進展下においてフランスの地域経済の競争力を強化することを意図したものであるが,パリ地域に「世界的な極」が集中している点は注目すべき変化といえる.

キーワード:
 フランス,地域開発政策,地方分権,ペイ,競争力の極

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